米で開催されたデジタル技術の見本市「CES」で、ソニーの新型ゲーム機「プレイステーション(PS)5」のロゴと一部スペックが発表されました。ロゴと一部のスペック発表だけでしたが、それだけで大きな話題になりました。これだけ話題をさらえる商品は、他業種を含めてもなかなかありません。そして今回PS5の続報記事のコメント欄で、ゲーム機の互換性について誤解が生まれました。それが意味するところを解いていきたいと思います。
◇ゲーム機の「互換性」話題に
PS5で、PS4用タイトルが遊べる「互換性」を持たせられるよう開発を進めていることは、昨年に発表済みなのです。PS5を発売するソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)もそれを踏まえ、新情報と既報をまとめて発表し、それを受けて多くの記事が配信されました。
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ところがヤフートピックスにもなった上記記事のユーザーコメント欄で、PS5は初代PSやPS2、PS3、PS4のタイトルでも遊べる……つまり、PSシリーズの四つのゲーム機と互換性があるのだ……と喜ぶ書き込みがありました。その後、別の人が間違いを指摘して誤解は概ね収まりました。
記事には以下のような記載がありました。
>・プレイステーション 4タイトルとの互換性実現に向けた設計
よく見ると「プレイステーション」と「4」の間に半角スペースがあります。本来は「プレイステーション4(の)タイトルとの互換性実現に向けた設計」と読ませたいのでしょうが、誤解した人は半角スペースを見て「プレイステーション(の)4タイトル互換性実現に向けた設計」と読んだのでしょう(ユーザーコメントにも同じ指摘がありました)。まあ、人間は慌てると文章の意味を読み違えるのもよくある話です。何がよくなかったかはさておき、事実と違うことが広まるのはネットでよくあることで、それが指摘されて修正されるのもまたネットの特性です。これがきっかけなのか、コメント欄だけでなく、ツイッターでも過去のゲーム機の互換性が話題になっていました。
◇互換性 メーカーにビジネスのメリットは薄く
ですが、この誤解のユーザーコメントから感じ取るべきポイントがあります。それは新型ゲーム機で、これまでのゲーム機のタイトルが遊べなくなる(あっても一部に限定される)ことに対するユーザーの不満があることです。ではPS5で、過去のPSシリーズの互換性を実現することはできないのでしょうか?
理論上は可能でしょう。ただし、互換性のあるゲーム機を増やすほどコストはどんどんアップし、ソフトの動作確認にさらに時間がかかり、余計な部品や機能を積むことで予想外の動作不良、つまりトラブルの元になります。一言でいえば、明らかに割に合わないのです。
さらに補足すると、PS全タイトルとの互換性を持たせたPS5を出したとしても、ゲーム会社のビジネスメリットは、直接的な利益という意味ではかなり薄いのです。現在のゲーム機のビジネスは、新型ゲーム機を出した初期は、儲けどころか赤字になるのも珍しくありません。ヒットして量産効果が見込めると利益が出てきますが、そんな悠長なことは言ってられません。どこで儲けるのか?といえば、一番はゲームソフトなのです。
ですが、昔の(パッケージ)ゲームソフトを手に入れるのは、既にユーザーが持っているものか、メーカーの手が及ばない中古ゲーム市場です。そうなるとメーカーの利益はゼロです。そもそも昔のゲームの廉価版を増やしたとしても、店の棚も圧迫しますし、ゲーム販売店も喜べません。
つまりユーザーの希望・要望は大事ですが、ビジネスとして成り立たないことは、実行できないわけですね。結局、昔のゲームを遊ぶには、「プレイステーションナウ」などのサービスを使うか、中古市場でゲーム機とゲームソフトを手に入れるところに落ち着いてしまうわけです。
◇カギはPSプラス
しかし、「ゲーム機の互換性は割に合わない」と否定すると、PS5のやろうとしていることに説明がつきません。そもそも今回のPS4用タイトルの互換性を持たせるために、とんでもないコストがかかっているはずです。互換性をなくすほうがコストも抑えられ、それはより安い価格になることを意味しますから、その方がユーザーが喜ぶはずなのです。ましてや、当初PS2との互換性のあったPS3が失速し、PS3との互換性のなかったPS4がPS2を上回る爆発的なペースで売れてました。過去の事実が未来の成功を保証するわけではありませんが、かといって過去の事実を無視するわけにはいきません。
では、なぜリスクを取ってPS5はPS4の互換性を持たせようとしているのか。それは、会員数3800万を誇る有料のネットワークサービス「プレイステーションプラス」の継承にあるからでしょう。PSプラスは、PS4の発売前からスタートしたサービスですが、今では実質的にPS4と融合して理想の収益モデルに成長しました。SIEの親会社・ソニーの決算発表でもその成果は大きくアピールされています。
SIEがPS5の発売で恐れていることは、PS4をそのまま遊び続ける「PS5の買い控え」です。現在のヒット商品が新商品の邪魔になる構図は避けたい展開ですが、確実に避ける方法などはありません。そこでポイントになるのがPSプラスです。そして、PS5を買わせるための施策を、PSプラスを通じて仕掛ける……のではないでしょうか。これまで、現行ゲーム機から新型ゲーム機へ買い替えさせるためには、人気ゲームのヒットをひたすら待つ不確定要素に頼らざるを得ませんでした。しかしPSプラスを活用すれば、不確定要素をいくぶんは緩和できる可能性があります。
PSプラスのメンバーであれば、PS4用タイトルが毎月数本が配信されているわけです。例えば、その配信タイトルがPS5になれば、PS5を買い控えていたPS4のユーザーに買い替えのベクトルが働くのは明らかです。PSプラスはユーザーとダイレクトにつながっているので、SIEはPS5の売れ行きを見ながら、巧みに買い替えを促す動きに出てくるはずです。
PSプラスの利用料金は年額5143円です。値引き、割り引きもありますからあくまで目安ですが、単純計算をすると年で2000億円近い金が会社に入ります。そのキャッシュ(現金)だけでも魅力ですが、周辺ビジネス、コミュニティーの価値、ゲーム好きでお金を払う優良ユーザーというクラスター(集団)、潜在的なビジネスの可能性を考えるとそれ以上の意味があり、PSのビジネスの“生命線”と言えるものです。従来のゲームのビジネスは、ゲーム機とソフトを“両輪”にして動いていたわけです。しかし今では、ソフトの重要性は変わらない一方で、ゲーム機の重要性は薄くなり、変わってネットワークサービスの重要性が増しているわけですね。
「互換性はゲーム機の普及に関係ない」ことを理解しているSIEが、PS5でわざわざPS4を取り込む意味を考えると、いろいろなものが見えてくるのです。
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January 12, 2020 at 10:00AM
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