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ゲーマーという最高で最悪の客:但木一真連載『ゲーム・ビジネス・バトルロイヤル』 第1回|WIRED.jp - WIRED.jp

その昔、ゲームは一部の有識者によって評価されるものだった。だが、いまやゲームをレヴューし、その内容をも変えさせる力をもつのは消費者たるゲーマー自身だ。マーケティングを誤れば人気タイトルも水の泡。声に耳を傾け続ければ、駄作も愛される傑作に。ゲーマーという“最高で最悪の客”を、ゲーム/eスポーツ業界アナリストの但木一真が考察する。

GIF BY RIO ARAI

ブリザードのゲームを愛する大勢のファンが2018年11月2日、イヴェント「BlizzCon」のオープニングセレモニーに駆け付けた。数あるブリザードのタイトルのなかでも注目を集めたのは「ディアブロ」シリーズの最新作である。

1996年に発売されたシリーズ第1作の「ディアブロ」は、シンプルな操作性とランダムに生成されるアイテムを収集する中毒性により人気を博し、大量のクローン(同作のシステムを模倣したゲーム)を生み出した。続く「ディアブロII」は1,000万本 、「ディアブロIII」は3,000万本の売上を記録し、ディアブロはゲーム業界を代表するフランチャイズ(シリーズ)となった。

BlizzConのオープニングセレモニーに登場したリードゲームデザイナーのワイアット・チェンは、意気揚々とステージに登場し、聴衆に呼びかけた。

「BlizzCon! われわれはディアブロが好きだ! われわれは世界中のプレイヤーが一緒にデーモンをぶっ倒すディアブロが好きだ!」

盛大な歓声で応える聴衆。シリーズ最新作に対する期待は高まる。チェンは続けた。

「現代社会はすべてのプレイヤーがつながっている。スマートフォンを通じて友達や家族、愛する人とつながっている。そしてブリザードはディアブロ最新作のプラットフォームとしてスマートフォンを選んだ」

チェンは「ディアブロ イモータル」と名付けられた最新作を興奮気味に説明した。いわく、スマートフォンでプレイできる最高のアクションRPG。いわく、どこでも誰とでもプレイできる。そしてスクリーンに流れるトレイラー。

ブリザードにとって商戦の目玉となる重要なタイトルの発表が、まさか最悪の結果をもたらすなど、チェンを含め社員の誰も予想していなかっただろう。

シリーズのファンはPC版の最新作を待ち望んでいた。パフォーマンスと画面サイズを妥協したモバイルゲームなどに興味はない。PCのスペックを最大限に生かした最新作が欲しかったのだ。

BlizzConを配信していた動画コメント欄は阿鼻叫喚だった。サムズダウンの絵文字、R.I.P(安らかに眠れ)、Fワード。BlizzConの様子を実況していた配信者たちも一斉に最新作に不快感を表した。

会場の聴衆も冷え切っていた。開発者による一連の発表のあと、質疑応答に並んだファンはブリザードに対して直球の批判コメントを投げつけた。「この発表は季節外れのエイプリルフールだよな?」

発表のあと、メディアが一斉にディアブロ イモータルの惨劇を報道した。いずれの記事もファンに対して同情的で、ブリザードに対して辛辣な内容だ。掲示板サイトRedditのディアブロ板には大量のスレッドが立てられた。さらには、「Make Blizzard Great Again(ブリザードを再び偉大に)」と題したオンライン署名運動まで始まった 。署名の説明にはこう書かれている。「ブリザードはコミュニティのことを何とも思っていない。これはコミュニティに対する冒涜だ」

ディアブロ イモータルの発表は、マーケティングコミュニケーションの失敗事例として後世に語り継がれるだろう。その原因は山とある。主力タイトルの開発を他社に丸投げしてブランドが毀損されたととられたこと(中国企業のNetEaseとの共同開発だった)、そもそも発表のタイミングが悪かったこと、そして何よりファンに対する理解が不足していたことだ。

開発者たちは発表に際し、プラットフォームとしてスマートフォンを選択することでプレイヤーのすそ野を広げることを強調した。ゲーム産業におけるモバイルゲームの存在感は日ごとに増している。経済成長著しい東南アジアをはじめ、スマートフォンの普及に伴い、モバイルゲームのプレイヤー人口は右肩上がりだ。ゲーム企業の多くがモバイルゲームに比重を置くことは合理的な判断である。

しかし、フランチャイズのファンが企業の合理的判断を是認するとは限らない。BlizzConをチェックするほどにブリザードのゲームやディアブロシリーズを愛するファンは、スマートフォンではないプラットフォームを望んでいた。そして、望みが叶わないとわかったファンたちが牙をむいたのだ。

ゲームと直接民主主義

フランチャイズの新展開が多くのファンを失望させるという事例はゲームに限ったことではない。映画にも音楽にもマンガにも、あらゆるエンターテインメントジャンルに憂き身をやつすほどの作品愛をもったファンは存在する。制作者がポピュリズム的(つまり多くの熱心なファンではなく、大衆受けを狙った)展開を試みた際に、酷いバッシングを受けることは日常茶飯事だ。マンガファンはいくど“漫画の実写化”の発表に落胆し、出来上がった作品の出来にさらに落胆したことだろうか。

そのなかでゲームのファン、つまりゲーマーの特殊性を挙げるとすれば、“リアルタイム性”と“フィードバックの強度”の2点だろう。これらに企業側が応えられなかったのだ。

まず前者について考えてみよう。企業にとって多額の予算を投じて開発してきたタイトルの発表・リリースといったタイミングは、マーケティング戦略において最も注意を払うべき要素である。

序章で述べたとおり、企業が人々の関心と可処分時間を奪い合う産業においては、情報を流通させる際の最大瞬間風速を高め、その風力を消費者の購買力に変換する必要がある。「E3」「東京ゲームショウ」といった見本市や、公式チャンネルの動画配信といった舞台を整え、“リアルタイム性”を演出しなければならないのだ。

一方、企業の“リアルタイム”な情報発信を期待しているゲーマーは、その瞬間が訪れるとSNSや5chといったコミュニケーションプラットフォームを通じて即座にフィードバックを行なう(要はあれこれと感想を言い合うのだ)。あるいは、その瞬間をゲーマーたちが実況配信するケースもある。これに加え、これらの配信を編集してまとめたリアクション集という動画も流通する(世の中には、ゲーム配信者のリアクションばかりをアップロードするYouTubeチャンネルまで存在するのだ)。

企業のマーケティング戦略とゲーマーのフィードバックの速度が合わさることで、ゲームの情報は刹那的なスピードで流通する。ポジティヴな風潮もネガティヴな風潮も、一夜と言わず数時間で流れが決まってしまう。

もうひとつの特徴である“フィードバックの強度”とは、「ゲーマーの意見がどれほどゲーム制作に影響を与えるか」だ。多くの企業は、ゲーマーからのフィードバックを意思決定のための重要なデータだと認識している。「ユーザーが何を求めているか」を知るためには、生の声を拾うのがてっとり早い。

音楽であれ映画であれ、エンターテインメントコンテンツは“完成品”が流通する。長い制作のプロセスを経て、仕上げが施されたのち、消費者の元に届くのだ。

ゲームも同様のプロセスを経るが、特異なのはアップデートによって内容が改変されるものが多い点だろう。ゲームは長期間にわたって運営され、ユーザーの手元には常に追加・修正されたコンテンツが届く仕組みになっている。つまり、常時発信されるゲーマーのフィードバックは、アップデートに際してゲームの内容に直接反映される可能性があるというわけだ。

ゲーマーのフィードバックには強度がある。SNSで飛び交うネガティヴな風評や、ストアに投稿されるネガティヴなレヴューが売上とユーザー数に直接的に影響するため、ゲーム企業はフィードバックと向き合わざるをえない。

とはいえ、映画や文学、音楽といったエンターテインメントコンテンツと同様、過去のゲーム産業において、フィードバックを送るのは一部の有識者だった。例えば、1986年から続くゲーム専門誌『ファミ通』には、複数の評者が新発売のタイトルを10点満点で評価する「クロスレビュー」というコーナーがある。インターネット以前、つまり一般のゲーマーがフィードバックを送るためのインフラが整うまでは、このコーナーは大きな権威を有していたのだ。高評価を得たタイトルは「シルバー」や「ゴールド」といった称号が与えられ、称号の色がタイトルの売上に影響した。

現在その権威は、一般のゲーマーに渡りつつある。ゲーマーによるフィードバックがインターネット上に流通することで、あらゆるゲーマーの“集合知”がリアルタイムで形成されるようになった。ゲーム企業はこの捉えどころのない流れに常に目を光らせ、自社タイトルの行く末を見定めなければならない。これこそが、ゲーマーによるフィードバックの「怖さ」なのである。

ゲーマーとは誰か

ゲーマー(とその恐るべき性質)をひとくくりに議論してきたが、ゲーマーとはそのじつ多様である。1つのタイトルをプレイし続ける熱心なゲーマーもいれば、スマートフォンで複数のゲームを少しずつプレイするゲーマーもいる。

マーケティング会社Newzooはゲーマーを8種類に分類し、それぞれの特徴を挙げている。それによれば、最も多くを占める属性は「タイムフィラー」だ。「キャンディークラッシュ」といった手軽に遊べるタイトルを好み、主にスマートフォンを利用する。空いた時間の暇つぶしのためにゲームをプレイすることが特徴だ。ほかにもハードウェアにお金をかけない「クラウドゲーマー」や、自身ではゲームをプレイせずに動画だけを視聴する「ポップコーンゲーマー」の比率も高く、これら3つの属性を合わせると全体の過半数を超える。

読者の多くはゲーマーと呼称された際に、“オタク”で“熱心”で“消費をいとわない”といった特徴を想起するかもしれないが、ほとんどのゲーマーはカジュアルにゲームと付き合っている一般的な人々だ(“一般的”の定義が難しいことには留意したい)。

『ファミ通ゲーム白書2019』によると、日本国内の5〜59歳の人口7,824万人に対して、ゲーマーの人口は4,911万人で全体の約63パーセントだ 。アメリカでは人口に対する49パーセント(2015年時点)、中国では人口に対する45パーセントがゲーマーである。つまり、人口の半分かそれ以上が“ゲーマー”と呼称される資格があるというわけだ。

あまねくゲーマーが存在し、エンジョイ勢(カジュアルにゲームを楽しむ層)が多数を占める一方で、ブリザードの事例のようにコアなゲーマーによって悪評が広まり、マーケティング戦略が台無しになることがある。インターネット上に形成される集合知がゲーマー全体の意見を反映しているとは限らないが、大きな声は拡散されやすく、それが全体の総意であるという印象をもたらすからだ。

最高で最悪な客

あらゆる産業の企業がインターネットという広大で強力なフィードバックシステムに手を焼くなかで、ゲーム企業はその最前線にいる。

ゲーム企業はリアルタイムにフィードバックを行う熱心なゲーマーと、気軽にゲームをプレイするエンジョイ勢という性質の異なる客に対して絶妙なバランスをとらなければならない。刹那的に流通する声の大きなフィードバックの真意をつかみ、今後の製作にどれだけ反映すればよいのだろうか。

ひとつの事例を紹介しよう。Hello Gamesによるアドヴェンチャーゲーム「No Man’s Sky」は、惑星が自動的に生成される無限の宇宙を探索する、というコンセプトのゲームで、発表時に高い評判を獲得した。ところがいざリリースされると、何もない惑星で資源を収集する退屈なゲームだ、という評判が広がり、莫大な開発費を投じてきたHello Gamesは窮地に立たされた。

ほとんどのゲームの物語は、ここで終わりだ。最大瞬間風速の風が逆に吹けば、売り上げもユーザーも伸び悩む。これ以上の出血を止めるためには、企業はタイトルを諦めるしかない。

しかし、Hello Gamesは開発を続けた。悪評のフィードバックを改善ポイントとしてとらえ、さまざまな要素を改善・追加していった。リリースから3カ月後の2016年11月に第1弾の「The Foundation」、2017年3月に第2弾「Path Finder」、同年8月に第3弾の「The Atlas Rises」と続けざまにアップデートを行なった。

関連記事:ファンの「失望」から1年後、『No Man’s Sky』はユーザーと「対話」しアップデートした

フィードバックが開発に反映されるようになると、風向きが変わってきた。ゲーマーはHello Gamesの開発力に信頼を寄せるようになり、No Man’s Skyの評判は回復していった。2018年7月の第4弾アップデート時には、Hello Gamesの創業者ショーン・マーレイの似顔絵をナスカの地上絵のように星の表面に描き、その様子をTwitterにアップロードするゲーマーが現れた。ツイートには「素晴らしいゲームをつくってくれてありがとう」という感謝の言葉が添えられていた。

さらに、2019年6月にはRedditのNo Man’s Skyコミュニティがキャンペーンを始めた。資金を調達して、Hello Gamesのスタジオ近くに感謝を伝えるための看板を設置しようというものだ。開始からわずか14時間で目標金額の1,750ドル(約19万円)を突破し、6,185ドル(約69万円)もの金額を集めている。リリース当初のバッシングからは想像もつかないほどに、ゲーム企業とゲーマーが深い信頼で結ばれたのだ。

多くのゲーム企業が刹那的なフィードバックに右往左往するなかで、No Man’s Skyの事例から学ぶことは多い。嵐のように吹き荒れる悪評のなかに、ゲームを改善しユーザーを獲得するための集合知が埋もれていた(悪評のおおよそはゲームを購入していない人間の声だったとマーレイはのちに語っている)。Hello Gamesはフィードバックの内容をもとにアップデートを繰り返し、最終的には良好な顧客との関係を構築していった。

ゲーマーは最悪な客であり、最高の客でもある。敵にまわせば企業の業績は奈落の底に落ちていき、信頼を獲得できればタイトルを支える大きな原動力となる。ゲームビジネスが生み出すダイナミズムは、熊とワルツを踊るというリスクと表裏一体なのだ。

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