ストリーマー、ユーチューバー、ティックトッカーが、中国発のロールプレイングゲーム「原神」に夢中になっている。こうした人々にとって「原神」は、まるで手品でロープがどんどん出てくる魔法のシルクハットのように、無限にコンテンツが出てくるゲームのようなのだ。
一見すると「原神」は素晴らしいゲームである。主要な部分が無料のFree-to-play(フリー・トゥ・プレイ)であり、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」をアニメっぽくした感じで、多くの人たちが喜びそうな世界観を構築してカリスマ性のあるキャラクターを用意している。
こうして「原神」は、9月下旬のリリースから2週間も経たないうちに収益が総額1億ドルを超え、欧米で史上最も人気のある中国産ゲームとなった。アプリ分析会社のApp Annieによると、「原神」は10月のモバイルゲームの売上高ランキングで世界第1位だった。
TikTokに最近投稿されたある動画を見れば、その成功の秘訣がわかるかもしれない。PCで「原神」をプレイする男性の周りに7人の男性が群がり、サッカーの試合で興奮した観客のように叫んでいるのだ。
そしてプレイヤーの男はマウスカーソルを動かし、「祈願」ボタンの上に置く。ゲーム内通貨を使って“祈願”することで、レアアイテムやプレイアブルな「俺の嫁」や「わたしの夫」を入手できるチャンスを得られるからだ。
仲間たちが叫んで応援するなか10連祈願のボタンをクリックすると、画面上の空に10個の輝く石が飛翔しながら現れ、得られるアイテムが示されていく。そしてレアアイテムである金色の飛翔が現れたところで叫び声が上がった。プレイヤーは排出確率が1パーセント未満のキャラクター「ウェンティ」を手に入れたのである。
搾取の象徴としてのガチャ
「原神」の開発元であるmiHoYoは『WIRED』US版の取材に対し、成功の秘訣はFree-to-playのモデルであることに加えて、PCやPS4、Android、iOSで提供していることだと説明している。だが、プレイヤーや批評家たちは、こうした説明は“わかっていない”と考えている。「ガチャ」を採用したゲームとして米国で最も人気のタイトルのひとつとなった「原神」は、長らく搾取の象徴とされてきた「ガチャ」に手を出すようプレイヤーに迫っているのだ。
ここで言う「ガチャ」とはモバイルゲーム(多くの場合はFree-to-play)の用語で、キャラクターやアイテムを「引く」または「回して当てる」といった意味で中国や日本、韓国で使われてきた言葉である。欧米のゲームにおいてもこれと似た仕組みが、一人称視点のシューティングゲーム(FPS)でのランダムな報酬や武器のスキンといった形態で、10年以上にわたって存在してきた。
例えば「オーバーウォッチ」では、ゲーム内通貨を購入してキャラクターのスキンやプレイヤーアイコンが含まれている可能性がある「トレジャーボックス」を入手できる。「Marvel オールスターバトル」のような売上トップクラスのアプリも同様に、より優れたキャラクターを低確率で入手できるチャンスを得るために課金するようプレイヤーに促す。
「原神」は無料でプレイ可能で、祈願にお金をかけなくても牧歌的な風景や幻想的なストーリーを楽しむことができる。しかし、課金額と楽しさが明確な相関関係にあるのだとすれば、そこにはFOMO(Fear Of Missing Out:見逃すことへの恐怖)が起こりやすい。人気のTwitchストリーマーやユーチューバーが祈願で楽しく遊んでいるなら、なおさらだろう。
プレイヤーは特定の段階に進むことで、祈願を無料で獲得することもできる。だが、23人のキャラクターすべてを最大強化したり、ゲームを完全に体験したりするには課金が必要になってくる。
ユーチューバーからも疑問の声
正確な率は明らかにされてないが、プレイすることで無料で得られる祈願を除いては、一般的に祈願ごとに数ドル(数百円)程度を課金する必要がある。祈願90回で星5のアイテムかキャラクターの排出が確定するが、それ以外の場合は出現する可能性は0.6パーセントという非常に低い確率だ。
あるRedditユーザーは、ウェンティの最大強化に2,400ドル(約25万円)を費やしたという。ユーチューバーのMtashedは10月下旬に5,440ドル(約56万円)を費やしたあと、「原神」への課金をやめた。
「このゲームのガチャの仕組みなんて、もう絶対に宣伝しない」と、Mtashedは最近の動画で語っている。「このゲームには非常に中毒性の高い要素があるんだ。ぼくが祈願に誘導してしまった視聴者がいたら、本当にごめんなさい」と、泣き出しそうな顔で謝罪した。
Mtashedは動画の投稿で数千ドルを稼ぎ出しており、「原神」の祈願への課金は経費で落とせる。Mtashedのファンにとっての利点は、ゲームの要素をアンロックできることだけだ。なかには大金を費やして後悔した人もいるかもしれない。
TwitchストリーマーのLacariは最近、視聴者にこれほど短期間でどうしてそんな大金を費やすことになったのかと質問されたとき、同じような考えを語っている。「配信していないのにこのゲームに1,000ドル以上を費やした人は、それ以上は課金しないことをお勧めしたい」と、彼は語っている。「そんなものはコンテンツじゃない。単に金を巻き上げられてるだけなんだ」
ガチャの認識に文化的な差異?
米国では17年に、多くの人々が「Pay to Win(ペイ・トゥ・ウィン)」とみなしていたゲームを中心に、ガチャとギャンブルの類似性について懸念が生じたことがある。Pay to Winとは、基本が無料のゲームにおいて、課金したユーザーが圧倒的に有利になるようなバランスのシステムを指す。
欧米のプレイヤーは「シャドウ・オブ・ウォー」や「Star Wars バトルフロント II」などのゲームにおいて、ガチャでアイテムを得るための課金額とゲーム内でのパワーとの直接的かつ明らかな関連性があることにいら立ちを感じていた。プレイヤーたちはこうしたゲームについて、「フォートナイト」のようにゲーム内での見た目を変えられるもののプレイそのものには影響しないアイテムを提供するゲームとは異なり、子どもでもアクセスできる搾取的なギャンブル依存装置だと批判したのだ。
「原神」が“悪徳商法”かもしれないという発想は、ゲームに対して感じる文化的な差異に根ざしている可能性がある。「原神」は11月1日の時点で米国で最もダウンロードされたゲームだが、App Annieによると収益の上位4カ国は中国、日本、韓国、米国だった。
シアトル大学コミュニケーション学部教授のクリストファー・ポールは、Free-to-playゲームに対して欧米人がもつ偏見についてまとめた書籍を10月に出版している。「Free-to-playゲームの『リーグ・オブ・レジェンド』は何でも許されるのに、ほかのゲームはなぜ許されないのだろうかと考え始めたのです」と、ポールは語る。
「その理由の一部は、欧米のゲームにおいて成り立ってきた経済システムにあると思います」と、ポールは誰もがゲームソフト1本に60ドル(約6,200円)という初期投資をするビジネスモデルについて言及する。「また、競争がどうあるべきかについての文化的な違いも理由の一部だと思います。つまり、受け継いだ財産ではなく能力に基づいて判断されるべきだという能力主義の理想論に結びついているのだと思うのです。ガチャのゲームでは能力だけでなく、財布の中身も重要だと常に思い知らされますから」
欧米のミレニアル世代のゲーマーは、ゲームオーヴァーにならないように常にコインを投入し続ける必要がある「ガントレット」のようなアーケードゲームではなく、主にカートリッジタイプのゲームで育ったのだとポールは指摘する。「Star Wars バトルフロント II」のように60ドルで発売した上に課金まで奨励するゲームでは、搾取されていると感じるかもしれないだろう。
ギャンブルとゲームの違い
これに対して、ほかの国ではゲームを進めたり、ゲームで優位に立ったりするためにお金を払う行為は普通なのだと、ロヨラ大学コミュニケーション学部教授のフローレンス・チーは指摘する。ガチャの仕組みに対する懸念は「正当なプレイモードとは何かという古い議論の新たなかたちにすぎません」と、チーは言う。
特に「原神」を巡る論争の一部は、結局のところ欧米のプレイヤーがこのビジネスモデルに精通していないことに起因している。
「ある意味、アジアのプレイヤーのほうがガチャの要素のあるゲームで自分たちが実際に“ギャンブル”をしているという意識が大きいのかもしれません。北米では、ゲームとギャンブルは通常は別に議論と規制がされており、『ゲーマー』と『ギャンブラー』は別ものと見なされています」と、チーは説明する。
さらに韓国のエンターテインメント統計では、ゲームとギャンブルを別々のカテゴリーとして扱っていないのだとチーは付け加える。「このビジネスモデルに慣れていない人が、ほかのアクティヴィティで同様の搾取的なビジネスモデルが使われていてもまったく問題ないと思っていても、ガチャのゲームに対しては疑いが大きいことは理にかなっています」と、チーは言う。
アジアの一部の国、特に中国では、特定のゲーム内アイテムを受け取れる確率の開示を開発者に強制する規制がある。主要ゲーム機メーカーは最近、こうした状況でプレイヤーにアイテムなどを受け取れる確率を伝えるよう開発者に働きかけると約束したが、欧米諸国ではガチャなどの規制が遅れている。
本当に「無課金に優しい」のか?
「原神」は、「祈願」という名のガチャシステムでその確率を示しているが、プレイヤーからは不公平とか確率が低いといった不満が出ている。これに対して「原神」の開発者は、このゲームを「無課金に優しい」と表現する。プレイヤーはどれだけ気軽にプレイしたいのか、課金するならどれだけ課金するのか決めることができるというのだ。
「このゲームにはプレイヤーに大きな自由度があります。また、プレイヤーに課金を強制することは決してありません」と、miHoYoの担当者は説明している。miHoYoはプレイヤーがゲーム内で費やす平均課金額については明かしていない。
多くのプレイヤーがキャラクターを最大強化するために多くの祈願を購入するよう追い立てられるという懸念にも、miHoYoは同様に異議を唱えている。「幻想世界『テイワット』の広大な土地を歩き回って景色とオープンワールドの探検を楽しむことを好む人もいれば、友人と一緒にチームを組んで協力して課題に取り組むことを楽しむ人もいます」と、miHoYoの担当者は言う。「常に新しいキャラクターを集めてレヴェルアップすることを楽しむ人もいるのです」
そのようなカジュアル寄りのプレイスタイルが、シアトル大学のポールが「能力主義の理想論」と呼ぶものと、なぜうまく調和するのだろうか? 多くの人には一見してわかりづらい。
「ブレス オブ ザ ワイルド」で自由に探索し、すべてのキャラクターと出会い、努力に応じてレヴェルアップすることに慣れたプレイヤーにとって、ガチャの仕組みは達成しなければならないゲーム内目標のひとつに映る。オープンワールドRPGによくあるガチャの仕組みに馴染みの薄いプレイヤーが、まるですべてのアイテムとキャラクターを集められるように「原神」をプレイしていることには、それなりの理由がある。大人気のストリーマーたちがそれをとても楽しそうにやっていれば、なおさらだろう。
「自分のクレジットカードの支払い履歴を見ていたら、これまで『原神』に5,000ドル(約52万円)を費やしていたんだ」と、ユーチューバーのTenhaは星5キャラクターのディルックの入手を目指した動画で語っている。「そして自分に、満足したか?と問いかけたんだ。答えは、満足していない、だった。ディルックが欲しいんだ」
Tenhaが祈願に数百ドルを費やしてディルックを手に入れたその動画に対して、ある人は次のようなコメントを投稿している。「ガチャ9割ゲームプレイ1割。これこそ求めていたコンテンツだ!!!」
※『WIRED』によるゲームの関連記事はこちら。
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