11月17日午前10時過ぎ、「ピンポーン」と来訪者。我が家に「Mac mini」がやってきた。Apple SiliconのMacカスタムバージョンである「M1」プロセッサを搭載したマシンが、本家・米国より一足先に届いた。それもかなり早いほうみたいだ。玄関まで小走りになりながら思わずニヤける。
購入したMac mini、Apple的な呼び方では「Mac mini (M1, 2020) 」らしい。その中でも一番安い、8GBメモリ、256GB SSDという構成。税込で8万円ちょっとである。これまでのMacの価格を考えてみても最低価格に近い。それでいて、性能的にはIntel Core i9搭載のMacBook Pro 16インチのマシマシモデルに一泡吹かせられるかもしれないという話なので、うれしくもなる。
最初のMacはMotorola MC68000を搭載したMacintosh Plus。長男の出産祝い金で購入し、Mac使いになり、DTPを覚え、それが現在の職につながる、PowerPCに代わるタイミングでDTPによるMac雑誌を立ち上げ、妻はAdobe IllustratorとPower Mac G4で地図デザイナーとなった。PowerPCからIntelへの移行期にはWebメディアのITmediaにいて、現在に至る。社会人になってからの歴史はMacの歴史と完全に重なる。執筆するメディアは活字、写植、DTP、メルマガ、Webメディアとプラットフォームを大きく変えて生き残ってきたが、Macもまた、MC680x0、PowerPC、Intel x86、そしてApple Siliconとエンジンを載せ替えてきたのだなあ……と感慨にひたってみたが、まあMacintosh老人会に所属しているので、許してほしい。
さて、この2020年は仕事のスタイルにおいても大きな変化が起きた年だった。外を出歩くことがはばかられるようになり、テレワークが定着する中、2020年の秋には大物ガジェットも多数出た。Oculus Quest 2、Apple Watch Series 6、PlayStation 5、Xbox Series X/S、Pixel 5、iPhone 12……。それぞれが魅力的で、財布が許せば全部買っているようなものばかりだが、再定義されてしまったワークスタイル、ライフスタイルに合わせて、こちらも環境も変えていかなければならない。そこでまず個人的に整理することにしたのが、スマートフォンだ。今年は新しいiPhoneを買わない初めての年になりそうだ。日本で発売されなかった初代を含め、毎年買っていたのだが、今回はスキップする予定だ。
なぜ私はiPhone 12を買うのをやめたのか
Apple Watch Series 6は購入した。Series 3から毎年買い替えているのだが、今年はコロナ禍ということもあり、健康には従来以上に気をつけておく必要があると感じ、血中酸素濃度も測れるしなあ、と更新した(心電図はまだ来ないけど)。
なぜiPhone 12を買わなかったかというと、そもそもiPhoneを持ち歩くことが少なくなってきたからだ。毎朝のウォーキング(1時間くらい)では、Suica/PASMOではない買い物の予定がある場合を除き、Apple Watchだけ手首に巻き付けて出かける。財布も持たない。どうせ自宅から数キロ圏内しか移動しないし、音楽も、電子マネーも、地図も、シェアサイクルも、電車ですらこれだけで事足りるのだ。それだけ周辺の環境が整備されたということでもある。
iPhone 11はQi充電が動作しなくなって交換したり、やはり有機ELじゃないと画面がくすんで見えるよね、というのを別にすれば性能的な不満はない。UWBによってデバイスの位置を高い精度で探せるという触れ込みの「U1チップ」が結局能力を全く発揮していないというのはあるけれど。性能で言えばむしろその前のiPhone XS Maxで十分なのだ。今は、部屋を移動するのにiPhoneを持ち歩くのも面倒くさいので、1階にはiPhone 11を、2階にはWi-Fi運用のiPhone XS Maxを置いている。iCloud経由の同期のおかげで、どちらも同じように使えている。iPhone 11でないときの電話はApple Watchで受け取っているので全く問題ない。
iPhoneを買わなかったその分は、自宅のコンピュータ環境の整備に回した。まずはネットワークを強化し、ソフトバンク光を導入。ギガビットの回線となり、細く不安定なケーブルネット回線から脱却できた。次はコンピューティングパワーの方だ。Appleは6月のWWDCで、年内にApple Silicon Macを出すということを宣言していた。ならば、我が家のわずかながらのリソースを投じる先はパワーアップしたMacにしよう。iPhone 12発表前にそう決めていた。
自分がリビングで使っているメインマシンはiMac 4K 21.5インチで2017年生まれ。3年前のモデルだ。これまで2回ほどFusion Driveが壊れたが、外付けSSDに起動ドライブを移して何とかしのいでいる。パワーには十分満足している。iMovieやDaVinci Resolveを使ったビデオ編集は、曲がりなりにもディスクリートGPUが入っていることもあり、Fusion 360などの3Dグラフィックスも、ゲーミングPCと比べて特に非力さは感じない。
これとは別に、寝室に2018年モデルのMacBook Airを置き、HKCという中国メーカーの廉価な湾曲34インチゲーミングディスプレイにつなげている。こちらは21:9の1440pで、4Kではないものの画面は広く没入感が高い。環境としてはいいのだが、Intel Core i5、デュアルコアで1.6GHzのMacBook Air 2018年モデルは非力すぎて、Safari、テキストエディタのJedit、Slack、Messenger、Discordを動かすのが精一杯。ちょっと馬力のいる仕事を与えると、すぐにファンが悲鳴を上げる。ムービー編集などは全てのタスクを終わらせてもまだ処理させるのは無理がある。
ビデオ会議というのはなかなかコンピュータリソースを食う。双方のビデオデータを送り、互いの画面に映し出すだけでなく、ドキュメントを共有してオーバーレイしたり、さらに画面や音声にエフェクトをつけたりする、使うPCには高性能を要求するものだ。そういえば、MacBook Airではグリーンバックのオプションすら出てこなかった。
そんな状態では趣味の音楽制作も思う存分できない。僕はLogic Proでボーカルを入れて妻の歌声とデュエットしたり、iPad ProのGarageBandでラフトラックを作ったオケをLogicに読み込んで仕上げたりするのを生きがいとしているのだが、そこでちょっとヘビーなソフトシンセであるAlchemyを使ったり、ボーカルのピッチやタイミングを細かく調整しようとすると、負荷を支えられなくなることが度々。Logicがクルクル虹を回す状態を多く目撃し、その結果、MacBook AirでLogicを使うことは少なくなり、リビングでiMacを使うようになった。
Logic Proの兄弟的存在のMainStage 3というApple純正ソフトがある。主にライブ演奏用で、さまざまな楽器、キーボードの音色を選び、接続したMIDIキーボードで演奏できる。ギターをつなげば、エフェクターボード+アンプにもなる。Macを楽器に変えてしまう、手頃なApple純正ソフト。ライブで使っているミュージシャンも多い。
僕のお気に入りでもあるのだが、これを気軽に立ち上げていられるだけの余裕はMacBook Airにはないことが使っているうちに分かってきた。仕事中にFender Rhodesの音を転がすと気が休まるのだが、そんな余裕はない。
Mac miniにした理由
で、M1搭載Macである。3つあるモデルのうちどれにするかというのが問題。小寺さんが選んだMacBook Airというのも正しい選択かと思うが、僕の場合は価格が決め手となった。税込8万円で新しいMacが買える、しかもどのみちオーディオインタフェースやMIDIキーボードをつなぐから場所固定だし、据え置きならディスプレイがある必要はない。もともと34インチの湾曲ディスプレイにつなぐつもりだったのだ。サブディスプレイが必要な場合はiPad ProをSidecarで使ったり、Logic Remoteでコントロールサーフェスとして使ったりできる。
で、M1搭載Mac miniにしたらどうなったかというと、2018年モデルのMacBook Airでヒイヒイ言ってた作業を余裕でこなすのである。Logic Proの重い処理であるFlex Pitchによるボーカルトラックのピッチ調整は、多数のトラックがあっても楽々できるし、ソフトシンセのトラックを増やすのに躊躇することはない。これまでは、iPad Proで動かすGarageBandの方がまだマシと思うことが多々あったが、それもこれからはなさそうだ。Logic ProとMainStage 3を同時に立ち上げていても、どちらかが影響を受けることはない。
仕事で使うアプリの組み合わせも楽々こなしてくれる。事実、テキストを打ち込むレスポンス、ブラウザの表示速度など、これまで経験したことがないレベルのスムーズさ。それでいてたった8万円。いい買い物をしたものだと思っている。Big Surの出来の良さもあって、原稿もサクサク進む。
ただ、音関係のアプリには未対応の製品が多い。いや、Apple純正以外では対応している方が少ないかもしれない。Waves Audioなどのサードパーティー製プラグイン、Rogue Amoebaのオーディオルーティングなど、これがないと生きていけないようなソフトも多い。僕はLogic内蔵ソフトシンセやエフェクトだけで事足りているので大丈夫なのだが、そうでない人はまだ待った方が賢明だろう。
Logic ProやGarageBand以外のDAWをメインで使っているユーザーも、現在のところはM1 Macを積極的に使う理由はないだろう。しかし、これらのメーカーの多くは近々対応すると発表はしており、まずはBig Surへ、次にM1対応を進めてくれているはずだ。Logic ProやGarageBandを見れば分かるように、M1チップ最適化から受けられる恩恵は多大だ。それまでは、Intelマシンは残しておいて、そのレガシーとは共存するようにしたい。
ビデオ編集もM1にした要因の1つだ。Blackmagic Designの「DaVinci Resolve」がM1チップへの最適化をいち早く発表した。その発表は記事にしたのだが、ダウンロードのリンク先がなかなか見つからないという人は多いと思う(自分がそうだった)。というわけで、M1対応版はこちらからどうぞ。インストールしてGPUのところを確認してみたが、たしかにM1 GPUに最適化されていた。というか、バージョン17.0のβ1ではGPUではねられて起動もできない。M1の人は迷わず17.1をインストールしておこう。
そういえば、Apple Silicon Macならではの大きな特徴について語るのを忘れていた。iOSアプリ、iPadOSアプリをmacOS上で動かせるという機能である。Mac App StoreではiOS/iPadOSアプリを検索できるようになっていて、僕のお気に入りの、サンプリングプレーヤーの「bs-16i」とメロトロンエミュレーター「Super Manetron」があった。iOS/iPadOSのApp Storeで購入していれば、そのままダウンロードできる。MIDIを設定して動かしてみたらちゃんと音が出る。これはすごくないですか?
僕のように、PC/MacよりもiPhone、iPadでの音楽作りがメインの人間にとっては、このBest of Both Worlds的なソリューションはたいへんうれしい。しかも複数のアプリを同時に弾けるのだ。iOS/iPadOSには素晴らしい楽器アプリが無数にある。これだけで元を取れた感がある。もちろんmacOS専用のサードパーティー製品がM1対応してくれるに越したことはないが、なしでも当面楽しむことはできそうだ。
M1 MacはディスクリートGPU並みとか、Ryzen 5950Xに匹敵するとかいう性能の異常さが取り沙汰されているが、僕のM1 Mac miniはパフォーマンスを誇示することはないものの、平穏にパワーを発揮し始めている。アプリの互換性が高まり、最適化が進んでくれば、M1 Macは「仕事に、趣味に、普通に使える安いパソコン」として受け入れられるんじゃないかと思っている。
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