『WIRED』日本版VOL.36の特集は「FUTURES LITERACY」。編集部では2020年代の必須科目30のひとつとして「『伝える』ためのボードゲーム学」を挙げ、メディアとしてのボードゲームの魅力に三部構成で迫った。ここでは、ボードゲームデザイナーのミヤザキユウが「ボードゲームの底力」を考察した第一部を転載する。(雑誌『WIRED』日本版Vol.36より一部転載)
SUPERVISED BY YU MIYAZAKI
TEXT BY ASUKA KAWANABE
本誌では、ボードゲームデザイナーのミヤザキユウが「なぜいまボードゲームか」を考察する第一部、「ボードゲームとは何か」をミヤザキが“因数分解”した第二部、世界各国のデザイナーに「ボードゲーム化」の手法を訊く第三部の三部構成でボードゲームを解読したが、ここではその第一部を転載する。ミヤザキが選んだオススメのボードゲーム3選も注目だ。
ミヤザキ:ここ数年、ボードゲームへの注目度は高まっています。国内最大規模のアナログゲームイヴェント「ゲームマーケット」では、来場者・出展者共にうなぎ上りに増えていますし、テレビやYouTubeの番組でもボードゲームが取り上げられる機会が増えました。
さらに、最近では企業や行政がアイデアや仕組みを伝える際にボードゲームに注目する機会も増えています。例えば、警視庁は警察職員の業務を疑似体験できるボードゲームを制作し、採用イヴェントなどで活用しているそうです。最近ぼくが制作に携わったグーグル日本法人の『学園チョイス!』も、中高生がデータとサーヴィスの関係を楽しく学べるものになっています。
ボードゲームというメディアがもつ大きな強みは、プレイヤーが面白さを「体験」できる点でしょう。何かを見聞きするときは面白さがプレイヤーの外側にある一方、ボードゲームではプレイヤーが面白さのなかに入り込めます。それゆえ知識にとどまらない、経験に近い学びが得られると思うのです。
また、つくり手の視点で言うと、ボードゲームは「アイデアを実装しやすい」メディアだともいえます。アプリをつくるのであれば、ほかと整合性がつくようなプログラミングが必要になりますが、ボードゲームは紙とペンさえあればプロトタイプがつくれますし、技術的な制約もありません。だからこそ、ひたすらブラッシュアップを繰り返して完成度を上げやすいのです。
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1/3『ビッグショット』〈Engames〉
資産価値の高い土地を競り合うオークションゲーム。最初に生じる「ゆがみ」が、のちに大きな狂乱を生み出す様子はバブルを見事にモデル化している。際限なく借金でき、利子が膨れ上がるのもポイント。PHOTOGRAPH BY CHIHIRO KIYOTA -
2/3『カタン スタンダード版』〈GP Games〉
無人島の開拓者となり、勝利点を競う。資源が産出しやすい土地の見極め、他プレイヤーとの交渉など多様な要素があってなお、最後に勝負を決すのはサイコロ。ボードゲームの面白さが詰まっている。PHOTOGRAPH BY CHIHIRO KIYOTA -
3/3『ボルカルス(Kaiju on the Earth)』〈アークライト〉
プレイヤーは怪獣側と人間側に分かれ、片や限られた時間で東京を壊滅させようとし、片や怪獣を倒そうとする。限られた時間・リソースを使って課題に立ち向かうときにどう議論・意思決定すべきかが学べる。PHOTOGRAPH BY CHIHIRO KIYOTA
さらに、メディアが変われば読み手も変わります。「本を読むのは苦手だけれど、ボードゲームだったら遊べる」という人もいますよね。以前トポロジー(位相幾何学)をテーマにした『トポロメモリー』というボードゲームをつくりましたが、これはこの学問の面白さを、普段この分野に触れることのない人にも広める機会になったと思っています。
ゲームデザインは、物事の面白さをリ・パブリッシュする作業です。それはつまり、どこかで見つけた「強度のある面白さ」を、ボードゲームというメディアに乗せてあらためて届けることと言えます。例えば、トポロジーの面白さは、その定義的な部分だけを伝えるだけではわかりにくいかもしれません。それをボードゲームに乗せることで、その概念の面白さがより広いオーディエンスに伝わりやすくなるのです。
ミヤザキユウ|YU MIYAZAKI
ボードゲームデザイナー、株式会社バンソウ取締役。『トポロメモリー』『コトバグラム』などのオリジナルボードゲームほか、企業向けのコミュニケーションボードゲームなどを制作。
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March 19, 2020 at 06:00PM
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