『DEATH STRANDING』が2019年11月にリリースされ、早3か月。本作はその経緯もあり開発中から大きな注目を集め、リリース後には大胆なゲームデザインやストーリーに対し、世界中で高い評価を受けました。
『DEATH STRANDING』は『メタルギアソリッド』シリーズの小島秀夫監督が、コナミから独立し、コジマプロダクションを設立しての第一作。今回まったく新しい環境から開発をスタートしたため、その仕事のスタンスにも注目が集まっていました。
そんな小島監督の仕事への取り組みが、2月19日に開催されたトークイベント「trialog.Vol9」にて深く語られました。「仕事のクオリティはどこまで追求するのか?」をテーマに、『スペースチャンネル5』や『テトリス エフェクト』のクリエイターである水口哲也氏に加え、出版業界からはWIRED日本版の前編集長でもある、編集者の若林恵氏の3人が仕事論を堀り下げて行われたディスカッションの模様をレポートします。
水口哲也氏との、クリエイターの資質の違い
トークの切り出しは、小島監督が古くから付き合いのある水口氏との会話から始まります。ふたりは25年以上に及ぶ関係があり、クリエイターとしての資質が違いを語りました。
まず水口氏は小島監督について「 みんなが “監督 ”と言う、その言葉に集約されています。自分の中から出てくるイメージを信じていて、それが太くて、強いんです」と語ります。「時間がかかったとしても、自らの思いを成し遂げる」と評価しました。
小島監督はそれを受け、「同じモノづくりをするクリエイターだけど、水口さんとは手法が違う」と返し、「僕が個がしっかりあってガッチリした固体だとすると、(水口氏は)自分の形を変えていったり、フラッと現れて、フラッと連れていってくれる気体のようなクリエイター」と自らを比較します。
小島監督は、水口氏とのゲームクリエイターとしてスタートしたプラットフォームの違いが、以降のクリエイティブの方向性にも関係していることを言及。「水口さんはアーケードゲームの開発でしたが、僕らはパソコンでした。当時のアーケードのグラフィックは、こちらが憧れる色数。一方、パソコンでは絵はボロ負け。なのでストーリーと世界観を掘り下げる方向にいったんです」と語りました。
ふたりがゲーム業界に入ったころ、業界では「(コンソールの)ハードの人とソフトの人が偉そうにしていた(笑)。パソコンの人はちょっと違うんですが……」と小島監督は振り返ります。当時の現場ではデザイナーへのリスペクトは少なかったそうで、水口氏とは、当時は少なかった「アート系を深く知っていた」点で共感があったそうです。
ビデオゲームのストーリーテリングについて話題が移ったとき、「あらためて思うけれど、小島さんはストーリーテラー」だと水口氏は評価。「僕のやり方はちょっと違って、音楽を混ぜて体験を作っていくんです」と自らとの違いを明らかにしました。
「ストーリーテリングを、なにを通じて行うかがあるじゃないですか。普通、ドラマや映画で実現するところを、ビデオゲームでやった。そこが僕らは共通している」と水口氏は続けます。
小島監督と水口氏は「ビデオゲームの表現力」を、このトークセッションでは「解像度」と例えて表現します。ふたりがゲーム業界に入ったころ、ビデオゲームの表現力はドット絵のグラフィックをはじめ、まだまだシンプルな、「解像度の低い」ものでした。
「しかし(解像度が低くても)世界中で遊ばれていて、それがすごいと思いました」と水口氏は振り返りながら、「でも(ビデオゲームは)ストーリーテリングという観点からすると、解像度は低かった」と当時を語ります。
水口氏はビデオゲームの可能性について「ストーリーテリングのメディアとしてはパワフルで、まだまだこの先があります」と展望を語ります。昔のゲーム開発では、限定的なことしかできなかったため、作りたいものを作れないフラストレーションを溜めていたところ、「今はテクノロジーが解像度を上げ、感動の質が上がっています。これほど(昔のゲームとの)差があるメディアはないなと思います」と水口氏はかつてのビデオゲームとの違いをまとめました。
ふたりともストーリーテリングや、世界観作りに定評があることに話題が移ると、若林氏はどうスタッフにゲームのコンセプトを共有していくか質問。なんと水口氏は「僕はね、詩を書いてスタッフに読んでもらうんです。小島さんと真逆(笑)」と驚きの発言も飛び出しました。音楽とビジュアルによる、ストーリー性のあるビデオゲームを作る水口氏ならではの方法言えるでしょう。
小島監督のゲームクリエイターとしての仕事
話題は本格的に小島監督の仕事論に。まず水口氏は「ビデオゲームはテクノロジーの進化と共に表現力を上げてきた、体験のメディアです。でも昔は(テクノロジーの問題で)やれることは少なかった。それが少しずつできることが増えてきました。」と前置きし、「
「『DEATH STRANDING』は、辛い時期があったのも知っているし、自分のことのようにウルっときました」とねぎらいます。
「(『DEATH STRANDING』)ではいろんな意味で(作りたいものを)吐き出せたとことが、今までより強いのでは」と水口氏は感動した理由を説明します。ときたま小島監督と会って話していると「(テクノロジーなどの限界ゆえに実現できない)フラストレーションがすごく溜まっているのがわかるんです」と振り返りました。そうしたことから、「小島さんは、フラストレーションを溜めながら作っている数少ない仲間だと思っています」と水口氏は評しています。
若林氏より「今回『DEATH STRANDING』を作るときの一番のチャレンジは?」と質問されたところ、まず小島監督は「そうしたことはよく聞かれますが、作っているのはゲーム。プラットフォームが変わっても、やることは同じ」と返答。「新しいチャレンジとなったのは、(コジマプロダクションの)事務所を探すことから、スタッフや資金を集めることでした」と続け、むしろ新たな環境づくりに苦労があったことが伺えました。そして「ゲームを作ること自体は身に付いたものです」とまとめます。
小島監督はゲームクリエイターという仕事について、「ものづくりをすることが僕の使命。そのことしか考えていません」と断言。開発したゲームの売り上げを出さなくてはならない問題はあっても『このゲームでこれだけ儲けましょう』とか、そこにものづくりをひっつけるのは難しいです。」と語りました。
小島監督は「もともと自分は完璧主義者なんです」と切り出し、たとえば「絵を描いていたとしたら、ずっと直したい部分が出るから描き終わらないんです」と語ります。水口氏も同意し、「いくらでも時間があると、(クリエイターは)ずーっと作っているんですよ」と語りました。なので小島監督は「ほぼ妥協ですが」と前置きし、「スケジュールに合わせてしかものを作れないんです。スケジュールがあるからこそ、そこに向けて全力でやります」といいます。
小島監督はこうしたクリエイターとしてのスタンスができあがるベースとして、往年のゲーム業界が「何をやっても良かった。ジャンルはなかった」時代があったと振り返ります。水口氏も「(ジャンルを決めない作りのため)昔はマーケティングやセールスに怒られました。『どの棚にこのゲームを置くんだ?』と」言われたそうです。
また、ジャンルの殻を打ち破る小島監督はいまのインディーゲームシーンについても言及。毎年何らかの革新的なゲームが生まれている場所に見えますが、小島監督からは「いまインディーゲームも面白いものがあるけど、年寄りの作ったゲームのフォーマットを組み合わせてるのが多いです」と評します。思ったよりは既存のゲームの殻は破り切れていない、という感想が窺えました。
「たとえば会社に呼ばれて、ものすごく受けるものを作れ、ジャンルはこれでと決められてものづくりをするのもありだと思いますが、そうじゃないアプローチもあると思うんです。そこは塞がれているというか」と小島監督は語り、「いいのか悪いのか、ゲームの紡ぎ手として、年寄りとして、(『DEATH STRANDING』で)こういうゲームがあってもいいよと見せたかったんです」とまとめました。
次のページ:小島監督はどうやって映画と本の良作に出会うのか?
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February 28, 2020 at 08:00PM
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